前回の記事では、アフリカのファッショニスタ達がどのようにネットを駆使して流行りのファッション情報を入手し、服やアクセサリーを購入しているのか紹介しました。
前回記事:【アフリカファッションに注目!】アフリカでのFashion eCommerceの最新状況 (anza-africa.com)
ネットにアクセスできる人々がオンラインでファッションを楽しんでいる一方で、インターネットや電子機器にアクセスできない人々がいることも事実です。その様な人々は購入の選択肢は少なく、海外から輸入される低価格の古着を購入して衣服を補っています。
しかし、こうした古着は良かれと思って寄付されたケースが多いものの、実はアフリカ諸国で暮らす人々に悪影響を与えている場合があります。今回は各国から輸入される安価な古着が、どのような環境、産業、雇用問題をもたらすのか説明していきます。
輸入された古着はどこにたどり着くのか?
いまだに存在している世界中の貧富の差により、インターネットを利用してファッションを楽しめる人々はごく一部の富裕層のみに限られます。そのため、アフリカの人口の大半を占める低所得層は、西欧諸国、アメリカから寄付された古着を、可能な限り低価格で購入し衣類を補っています。
近年、SDGs (Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)、といったキーワードが世界中で使用される様になり、環境、貧困、社会問題を根本的に解決する取り組みが多く見受けられる様になりました。
特に、ファッション業界のゴミ問題を解決する取り組みの一環として、アフリカ・アジアの途上国に古着を寄付する人々が増えました。先進国の人々は使わなくなった衣類やアクセサリーを処分することができて、アフリカの人々はできるだけ安く、または無料で古着を手に入れることができる。お互いにメリットがあるので、これはウィンウィンではないのか、そう考える人も少なくはないでしょう。もちろん、そういった古着が人々の生活に役に立っていることも事実です。
しかし、実際は大量生産した衣類を、寄付という名の廃棄物としてアフリカ諸国に押し付けている場合もあります。
例えば、西アフリカの国、ガーナの首都のアクラでは、ヨーロッパ、オーストラリア、アメリカから毎週、約1,500万着の古着が届いています。しかし、高い技術を持った先進国でさえ処理しきれない大量の古着が、保管設備や技術が不十分なアフリカにたどり着いた場合、さまざまな問題が起こるのは当たり前のことです。実際、これらの古着は品質が低く、着用後すぐに破損することが多く、洋服の悪化や環境への負担が増大するという問題が発生しています。
現地アクラのカンタマント市場で働いているピーター・クアンサさんは「先進国に人々は、アフリカ人はどんな服でも着ると思ってるんだろう。それは間違いだ。我々だって高品質の服を着る権利があるんだ」、とコメントしています。
ゴミ・環境問題と、現地の人々の捉え方
次に、先進国から輸入される激安古着が起こしているさまざまな社会、環境問題を紹介していきます。
前述したように、届いた古着の多くは、市場に出すには傷みすぎている、または古すぎるため、市場に出る前に埋立地に運ばれます。その後、それらの古着は燃やされるか埋立地にて処理されることで環境汚染問題に繋がります。例えば、2021年にケニアに輸入された9億着のうち、約4億5800万着が市場に出回る前に破棄されていました。
そのため、タイトルにもあるように、ガーナでは毎年大量に輸入されてくる古着のことを、‘Obroni Wawu(死んだ白人の服)’、と呼んでいます(ガーナのAkan語のフレーズ)。なんと同様の表現は他の国にも存在しており、その課題の大きさを示しています。(ケニア、タンザニア:’mitumba’/南アフリカ’ madunusa’/ナイジェリア‘Okrika’)
この一例として、ガーナのアクラのビーチ、コーレ・ラグーンでは古着による埋め立て問題が年々ひどくなり、それに伴い最も汚染された水域の一つとしても世界的に有名です。
化学薬品による水質汚染もコーレ・ラグーンの汚染の理由の一つです。輸入されたほとんどの古着は合成繊維で、前処理、染色、プリント、仕上げといった工程を経ています。この工程で使用される化学製品や染料が水質汚染につながっています。
また、合成繊維はプラスチックによる水質汚染にも繋がります。アクリル、ナイロン、ポリエステルなどのプラスチックで構成されていることから、プラスチックを含む衣類を着用、洗濯することでマイクロプラスチックを排出し、下水道に流れていくことによって、水質を下げています。
さらに、コーレ・ラグーンは、なんと魚より衣類がアミにかかることが多いことから、環境汚染だけでなく、ラグーンで漁師として生計を立てている人々にも甚大な社会的悪影響を与えています。
産業、雇用問題への影響
最後に、輸入古着がもたらすアフリカ大陸内での産業問題について説明していきます。
長年、欧米諸国のチャリティーショップに持ち込まれた古着が、アフリカをはじめとする世界各国の商人たちに販売される、という世界的な取引が行われてきました。アフリカ諸国の卸業者の中には、非常に高い収益性のビジネスを確立している人々もいました。
しかし、一部の国では国内の繊維産業に悪影響を及ぼす、として問題視されていました。大量の安価な古着が輸入されることにより、国内で古着を購入する人が増えるため、アフリカ域内の繊維産業は衰退し、雇用が減少している、というのが現状です。実際にガーナでは、1975年から2000年にかけて繊維・衣料品関連の雇用が80%減少したそうです。また、中古の衣料品の質は悪く、赤字で販売せざるを得ないため、古着関連の雇用は賃金が低いことも事実です。
直近の古着を巡る取組
最後に、直近の古着を巡る課題への取り組みについてお伝えしたいと思います。
ここ最近、アフリカの古着環境問題がさらに問題視されてきたことによって、2015年に、ブルンジ、ケニア、ルワンダ、タンザニア、ウガンダで構成される東アフリカ共同体(EAC)の加盟国は、自国の衣料業界を保護するため、2019年から中古品の輸入を禁止すると発表しました。実際、米国からの圧を受け関税を引き下げるとともに禁止案を撤回したものの、この古着問題に全力で立ち向かおうとしている人々や国々がいることも事実です。
今回の記事では、欧米諸国から「善意」として送られてくる大量の古着が、アフリカ内の環境、社会問題の要因となっていることについて紹介しました。
善意の古着も、その先の受け取り手をきちんと理解できていない場合、逆に人々の生活環境の破壊に加担することにも繋がりかねないのです。より持続可能な解決策を見出すためには、受け手のニーズや地域の状況を十分に考慮する必要があります。
あなたが寄付しているその古着、遠く離れた場所や人々にどんな影響を与えているか知っていますか?まずは、実際に何が起きているのか知ることが大事なのかもしれません。
【参照】
「アフリカ人はどんな服でも着ると?」ガーナで聞いた古着商の憤り
https://www.asahi.com/articles/ASQ8V5411Q5RUHBI038.html
How fast fashion is fuelling the fashion waste crisis in Africa
https://www.greenpeace.org/africa/en/blog/54589/how-fast-fashion-is-fuelling-the-fashion-waste-crisis-in-africa/#:~:text=Plastic%20pollution%20due%20to%20second,acrylic%2C%20nylon%2C%20and%20polyester.
「世界中の善意がアフリカの産業を殺している」古着リサイクルに秘められた不都合な真実
https://president.jp/articles/-/53225?page=5
Reality Check: Why some African countries don’t want charity clothes
https://www.bbc.co.uk/news/world-africa-44951670
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