アフリカの言語について
「アフリカ語ってどんなものなんだろう?」という疑問を持ったことはないでしょうか。ANZAの記事でも以前紹介されていますが、「アフリカ語」と言う言語はありません(過去の記事:2,000以上の言語が存在するアフリカ!まずは公用語をご紹介)。
そもそもアフリカには50以上の国があり、およそ2000を超える言語があるとされています。仮に50カ国、2000の言語とすると、平均して一か国あたり40もの言語が存在することになります。ですから、アフリカでは、母語=共通語とは限りません。
日本では、多くの人が日本語を母語とし、また日本語が国語、公用語とされています。しかしアフリカでは、いくつもの「母語」が存在します。その上、国境と言語の境界も一致しませんから、国語=母語ではないことがほとんどなのです。
それだけでも驚くべきことですが、今回注目するのは、言語の「数」だけではなく、言語をめぐる社会のありかたです。母語と共通語が一致しないだけでも、社会のありかたは変わります。日常的に使う言語と、オフィシャルな場面で使う言語が異なるからです。日本で例えれば、普段の会話は日本語で話し、ニュースや教育、裁判や役所は、すべて英語で運営されている、、、というような状況です。
では一体、「超」多言語社会のアフリカは、どんな社会になっているのでしょうか?まずはアフリカの言語の状況から見ていきたいと思います。
アフリカの言語状況:三層構造
アフリカの諸言語は、それらの成り立ちから三つの次元に分けられます。大きく分けると、➀民族語、②地域共通語、③ヨーロッパ系言語(公用語)という三層構造です(図1を参照)。
①それぞれの民族の母語である民族語
アフリカの多くの言語がこれに当たります。
②比較的広域で使用される地域共通語
複数の国や地域を跨いで使用されており、リンガ・フランカ(母語が異なる人同士がコミュニケーションをとるために共通語として使用される言語などを指す)とも呼ばれます。スワヒリ語などが含まれます。
③公的機関(行政や裁判など)で使用されるヨーロッパ系言語
多くは旧植民地国から引き継がれたもので、英語・フランス語・ポルトガル語・スペイン語などが代表的です。主な用語と定められています。公用語については、使用範囲が広い民族語(ルワンダ語、マダガスカル語)や、地域共通語が公用語とされる場合もあります(スワヒリ語など)。
このような多言語状況において、アフリカの人々は、複数の言語を操ることできることが珍しくありません。アフリカでは異なる民族が隣り合って生活している場合が多くあります。その場合、周囲の民族とのコミュニケーションのためには、他の民族の民族語を習得する必要があります。そのため、一つの「母語」だけでなく、いくつかの民族語を同時に習得するケースもあります。
また、民族語に加えて、地域共通語や公用語を合わせて習得する必要があります。その結果、アフリカ社会では多数の言語を同時に使用する人が多くなります。
例えばタンザニアの場合、民族語は120程度あり、地域共通語・公用語としてスワヒリ語があり、そのうえに行政や中等・高等教育で使用される英語があります。➀民族語、②スワヒリ語(地域共通語)、③英語(公用語)という三層構造と考えられます。アフリカの言語状況は、民族語・地域共通語・公用語という三つの層が絡み合った、複雑かつ多様なものだと言えます。
図1:アフリカにおける言語の三層構造(AAIC作成)
これら三つの次元の言語は、それぞれ、使用範囲や用途が異なります。
➀の民族語は、多くの人々にとっての母語に当たり、家族などとのコミュニケーションに使われます。使用範囲は、自分の属する民族集団や、隣り合う民族同士などで、かなり限定的です。
②の地域共通語は、民族語よりも使用範囲が広いです。例えばスワヒリ語は、ザンジバルを中心とした交易に使用されていました。
③のヨーロッパ系言語は、公用語として最も頻繁に使用されます。教育や行政などは、この言語が主として用いられます。ただし、多くの人にとって母語ではないので、後天的に取得する必要があります。
ここまでアフリカの一般的な言語状況を整理してきました。次回はこうした言語を取り巻く社会的制度と課題についてご紹介致します。
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【出典】
梶茂樹・砂野幸稔編 2009 『アフリカのことばと社会』三元社
北川香織 2015 「ルワンダにおける教授言語変更後の学校教育―公立学校で働く職員の視点から―」『アフリカ教育研究』5号、150‐164頁
沓掛沙弥香 2018 「タンザニアの教育言語政策:「グローバル化」と多言語主義の狭間で」『スワヒリ・アフリカ研究』29号、101‐120頁
2019 「アフリカにおける多言語主義の行方」『未来共生学』6号、181‐200頁
2021 「マグフリ政権下のタンザニアのスワヒリ語振興政策」『アフリカレポート』59号、133‐146頁
砂野幸稔 2012 「多言語主義再考」砂野幸稔編『多言語主義再考』三元社、11‐48頁
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