スマートフォン、インターネット、家電製品…、さまざまな電子機器が私たちの生活を支えてくれています。生活を便利にしたり、人の命を救ったり、さまざまな可能性を広げてくれるもの。しかし、これらの製品が役目を終えた後、どこにたどり着くか、ご存じでしょうか?
実は、多くの電子ゴミアフリカ諸国に輸出されています。特にガーナのアグボグブロシー(Agbogbloshie)地区は世界最大の電子ゴミの捨て場と言われています。この地区では、子供を含めたスラム街の人々が安い賃金でゴミを燃やしており、環境問題だけではなく社会問題にも悩まされています。
この記事では、私たちの生活に必要不可欠な電子機器の発達がもたらす負の側面について、アグボグブロシーを通して考えてみたいと思います。
アグボグブロシー(ガーナ)地域の特徴
世界最大の電子処理場であるアグボグブロシーは、ガーナ首都アクラ近郊、オドー川(Odaw River)沿いのコレ・ラグーン(Kole Lagoon)のほとりに位置しています。この地域には約80,000人が住んでおり、そのほとんどが電子ゴミの処理に関わっています。2000年ごろ、オールド・ファダマ(Old Fadama)からオドー川を隔てた場所に、電子ゴミを運ぶボートが現れるように、やがてそれが「電子ゴミの墓場」と呼ばれるようになりました。
なぜ、「電子ゴミの墓場」に…?
では、そもそもなぜアグボグブロシーに電子ゴミが運ばれ始めたのでしょうか?その主な理由は、先進国の廃棄物輸出といわれています。
欧米の多くの先進国は、使用済みの電子機器を「リサイクル」の名のもとに、ガーナなどの発展途上国に輸出しています。実際、多くの製品はリサイクル不可能であり、リサイクルインフラが十分に整っていない発展途上国では、アグボグブロシーのような場所にゴミ山として放置されています。また、電子ゴミの適切な処理には莫大なコストがかかります。そのため、一部の業者は環境規制が弱い発展途上国に不法に輸出し、安価に破棄することを選びます。これらの理由からアグボグブロシーでは電子ゴミが山積みにされ、その多くが現地の人々によって手作業で処理されています。
以下の記事には「電子ゴミの墓場」と化しているアグボグブロシーの写真も掲載されています。
The Toxic Effects of Electronic Waste in Accra, Ghana
https://www.bloomberg.com/news/articles/2019-05-29/the-rich-world-s-electronic-waste-dumped-in-ghana
社会問題(健康被害)
アグボグブロシーではほとんどの人が、破棄されたスマートフォンやテレビなどの電子機器から銅やその他の金属を回収することでわずかな収入を得て、生活を支えています。アクラだけでも4,500人から6,000人の人々が電子ゴミ処理ビジネスに関係していて、そのうち少なくとも3,000人のリサイクル業者がアグボグブロシーに住んでいます。丸一日働いて日本円で500円を稼げればいい方で、この収入はスラム街に住む彼らにとって貴重なものです。
しかし、こうした作業は深刻な健康被害を伴います。手作業による解体作業や、金属回収のための野外焼却などは、有害物質やガスを含んでおり、長時間の作業により子供や労働者、その家族、その他の人々に有害な影響をもたらします。鉛や水銀といった物質を吸収することで、がんや呼吸器系の病気の可能性を高めます。このように、電子ゴミは現地の住民にとって重要な収入源である一方で、命を削りながらの労働となっており、特に健康問題は深刻な社会問題として浮かび上がっています。
環境問題
また、アグボグブロシーに辿り着く電子ゴミは社会問題だけではなく環境問題も引き起こしています。
〇水質汚染
未処理で廃棄された電子機器には鉛、水銀、カドミウムなどの有害物質が含まれており、適切な処理が行われないまま土壌や水源に流れ込んだこれらの物質は、周辺地域の環境を汚染しています。電子ゴミから漏れ出す重金属や毒性物質は、農業用の土地も汚染し、作物の栽培にも悪影響を及ぼしています。水源の汚染も深刻ですが、近隣の住民は汚染された水を使用せざるを得ない厳しい状況にあります。
〇大気汚染
焼却処理がなされたとしても、その際に発する黒煙は、プラスチックやその他の素材が燃えることで有毒な化学物質を待機中に放出し、周辺の大気汚染を引き起こしています。
まとめ
電子ゴミの墓場と呼ばれるアグボグブロシーでの現実は、テクノロジーの進化の影に潜む「もう一つの現実」を突きつけてきます。電子機器がもたらす便利されに魅了され、次々と最新のデバイスに乗り換えていく私たち。しかし、最後には必ず廃棄物を生み出します。その廃棄物がどこに辿り着き、誰に影響をあたれているのか、普段はあまり意識していないのかもしれません。電子機器は役目を終えた瞬間、ゴミと化してアフリカの地にかき集められ、その後始末のために多くの人々が命を削りながら働いています。
テクノロジーの発展によって生み出される利便性が、実は誰かの命や健康の上に成り立っている。この矛盾は、私たちが今後どのように技術を扱い、廃棄物に責任を持つべきなのか、を問いかけているように思えます。私たち一人ひとりがもっと「見えない影」の部分に目をむけ、消費者としての責任を考えるべきではないでしょうか?
この記事が、そうした「影」の部分を照らす気付きのきっかけになれば幸いです。
【参照】
冷蔵庫やスマホなどの「電子ゴミ」はどこへ行く ガーナに電子機器の山?
https://forbesjapan.com/articles/detail/52857/page2
途上国の貧しき人々が生きる「電子ゴミの墓場」の真実
https://wired.jp/2018/05/01/electronic-waste-photographs/
The Toxic Effects of Electronic Waste in Accra, Ghana
https://www.bloomberg.com/news/articles/2019-05-29/the-rich-world-s-electronic-waste-dumped-in-ghana
Assessing data in the informal e-waste sector: The Agbogbloshie Scrapyard
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0956053X21006711
Ghana and COVID-19: Perspectives on livelihoods, health and living conditions of internal migrants in Accra
https://www.researchgate.net/publication/360486281_Ghana_and_COVID-19_Perspectives_on_livelihoods_health_and_living_conditions_of_internal_migrants_in_Accra
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