2020年10月の1か月間、アフリカの大国ナイジェリアで、警察特殊部隊(SARS)による国民の違法な殺害などに抗議するデモがナイジェリア全土で続きました。”#EndSARS”で世界的な著名人等も巻き込み大きな運動となりました。1999年の民政移管以来、最大規模の騒乱に陥りつつあるともいわれていた#EndSARSの動きについて、解説していきます。
# EndSARSの背景
警察に対して国民の怒りが高まっている背景としては、「特別強盗特殊部隊(SARS)」の活動が重大な人権侵害を犯していることが挙げられます。
SARSは強盗や誘拐、暴力事件への対処を目的として1992年に設立されましたが、当初の目的とは裏腹に、制服を着用せずに武器を携行し、日常的に道路の検問や所持品検査、情報端末の個人情報閲覧などのハラスメントを行っているとかねてよりナイジェリア国内外で指摘されていました。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、2020年6月に報告書を公表し、2017年1月から2020年5月の間にSARSが行った拷問や処刑など82件を告発しました。さらに、警察本部内には専用の部屋が与えられ、「組織的な拷問」が実行されていると批判しており、被害者のほとんどは、低所得で社会的に弱い立場にある18~35歳の男性だといいます。
10月3日、南部のデルタ州で、SARSの構成員がドライバーを検問した後に射殺し、被害者の乗っていたスポーツ用多目的車(SUV)を強奪した事件を撮影した動画が複数の著名人によってSNSで拡散されました。それにより、SARSの解散を求める声が全国で高まり、今回の#EndSARSの動きに発展しました。
#EndSARSの流れ
上記のような背景で開始されたデモが、どのように進んでいるのかを時系列で追っていきます。
10月3日
南部のデルタ州で、SARSの構成員がドライバーを検問した後に射殺し、被害者の乗っていたスポーツ用多目的車(SUV)を強奪した事件を撮影した動画が拡散
10月8日
国内各地でSARSに対する抗議デモが多発
10月11日
アダム・モハメド警視総監がSARSの解散を発表したものの、逮捕された抗議デモ参加者の釈放や被害者への賠償を求め、抗議デモは全国で続く
10月20日
ラゴス州で政府軍の無差別発砲により少なくとも12人が死亡、これを受けラゴス州は外出禁止措置を発動
米大統領選の民主党候補バイデン前副大統領がナイジェリア政府に対し弾圧の停止を求める声明を発表
10月21日
ナイジェリア各地で国民と治安部隊との衝突が多発し、公共施設への放火、商店の略奪が相次ぐ、多数の死傷者が発生
グテレス国連事務総長は、ナイジェリアの治安当局に状況の改善を求める声明を発表、さらにアフリカ連合(AU)も委員長声明を発表し暴力を強く非難
10月22日
ブハリ大統領が一連の抗議活動に対して理解を示さず、「今後さらに抗議活動が続くようであれば軍を出動させる」という旨の演説を行う
アムネスティ・インターナショナルは8日からの国内各地の抗議デモで、少なくとも56名が死亡したと指摘しています。
抗議グループ連合は本来意図していなかった、デモに乗じた略奪や破壊行為などを止めるために、「今後の抗議活動はオンラインを中心に行い、政府の今後の対応を注視していく」という旨の声明を発しました。根本的な問題の解決に至ってはいませんが、これにより、約1か月にわたって行われた#EndSARSのデモが沈静しました。
BLMからインスパイア
#EndSARSの動きの拡大にあたって、多くの抗議者は、アフリカ系アメリカ人に対する警察の残虐行為をきっかけにアメリカで始まった人種差別抗議運動BLMに触発されたと言われています。
#EndSARSはBLMと同様、警察の完全な体系的改革、残虐行為で有罪となった警官の処罰、SARS犠牲者への補償などを求めており、「警察官による市民の殺害は、自由な国では決して許されるべきではない。」というメッセージを伝えています。
抗議者たちは、#EndSARSがBLMのように世界中から認知を得ることを望んでいます。
ソーシャルメディアがデモを拡大
今回、#EndSARSの動きの拡大に大きく寄与したのがソーシャルメディアです。
SARSによって国民が殺害された様子とされる動画がSNSで出回ったことで、若者を中心とするデモに発展しました。SNSによる拡散はナイジェリアに留まらず、世界中に拡大しており、トロント、パリ、ニューヨーク、ロンドンなどの都市でも行進が行われています。
SNS上での抗議も活発化しており、「SARSを終わりにしろ」を意味する「#EndSARS」のハッシュタグをつけて多くの人々が声を挙げています。リアーナやビヨンセらのセレブ達もSNSを通じて抗議を行いました。
ブハリ大統領が演説を行った後には、SNS上で彼に落胆する声や非難する声が相次いでいます。
ナイジェリアの貧困問題
今回のデモに参加した人々の中には、新型コロナウイルスによって貧困が深刻化した人々も大勢います。
国連人権委員会によると、ナイジェリアでは経済的不平等が極端なレベルに達しています。オックスファムは2019年、ナイジェリアの人口の70%近くが貧困線以下で生活していると報告しました。
特にナイジェリアの人口の40%以上を占める30歳未満の若者は、深刻な貧困と失業に直面しており、新型コロナウイルスによりその状況はさらに悪化していることが予測されます。
アフリカ第1位のGDPを誇るナイジェリアですが、その陰に潜む貧困という課題にも目を向けなければなりません。
アフリカが抱える新たなリスク-新型コロナの第二波は「アフリカの春」?
#EndSARSの動きについては、AAICが定期的に新興国に関するコラムをnoteでも解説されてます。こちらの記事もぜひご覧ください。
アフリカが抱える新たなリスク-新型コロナの第二波は「アフリカの春」?
アフリカでは各国新型コロナウイルスの影響は一旦ピークを過ぎ、外出や渡航者の規制なども緩和されてきました。日本企業のアフリカ駐在員の方々も9月後半から順次駐在地に戻られています。私も今月よりナイジェリアのラゴスに赴任し、現地での業務を開始しております。アフリカではナイジェリアも含めた各国で新型コロナの二次的な影響とも呼べるような政治リスクが顕在化してきています。
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《参照》
2020年12月1日閲覧
「ナイジェリア軍がデモ隊に無差別発砲、12人死亡…警察改革求める抗議運動拡大」
「ナイジェリアで抗議デモに発砲、死者「12人以上」」
「リアーナやビヨンセ、カニエらがナイジェリアでの治安部隊による虐殺に抗議【#EndSARS】」
「警察の特別強盗対策部隊の解散発表するも、抗議活動が激化、市民生活にも影響」
「Nigeria’s #EndSARS protesters draw inspiration from Black Lives Matter movement」
「Nigeria’s youth finds its voice with the EndSARS protest movement」
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