ANZAでは、アフリカの日本企業駐在員なら誰もが知っている、日本人弁護士として現地で活躍される平林拓人先生に、ご自身のアフリカでの業務とアフリカビジネスの動向についてお話を伺いました。
平林先生は、現在、TMI総合法律事務所に所属し、同事務所のケニア現地デスクとして、東アフリカ最大の法律事務所であるAnjarwalla & Khanna LLPに出向されています。TMI総合法律事務所は、1990年の設立以来、国際化、ボーダーレス化した新しい時代に対応するため意欲的な挑戦を続けてきた法律事務所です。世界各国に拠点を持ち、グローバルに展開する日本企業のビジネスをサポートしています。
―初めに、平林先生がケニアで働き始めたきっかけを教えてください。
思い返すと子供のころからアフリカの大自然や文化に憧れを抱いていました。実際に初めて足を運んだのは学生時代で、バックパッカーとしてウガンダ、ケニア、タンザニアを訪れました。アフリカで働くきっかけとなったのは、弁護士5年目のときのスタンフォード大学への留学です。ロースクールの合間にアフリカ学科のゼミに参加していたところ、ケニアからの留学生と親しくなりました。彼が現在の出向先の代表弁護士の甥で、その縁で2015年からケニアで働き始めました。TMIからも力強くサポートしてもらっています。当時は現地商工会の日系企業は30社ほどだったと思いますが、その後現在までに2倍以上に増えました。
―アフリカに進出する企業の数がここ数年に急激に増加していることが伺えますね。では、実際にケニアではどのようなお仕事をされているのでしょうか。
時期によりますが、日本企業の案件が6~7割、欧米企業やケニアの大手企業の案件が3~4割ほどです。日本企業については、アフリカに進出する際の支援や、すでに進出している企業へのリーガルサポートをしています。ケニアのみならず、タンザニア、ナイジェリア、南アフリカ等の案件にも対応しており、現地弁護士のアレンジなども含めると、これまでアフリカ20~30か国の案件に関与しました。
―20~30か国も対応されているのですね!国の数が多くなるほど対応が複雑で大変そうですが、国ごとに法律の特徴の違いなどはあるのでしょうか。
はい、やはり国ごとにかなり違いがあります。東アフリカは、植民地時代の影響もあり、古い法律も新しい法律も英国法を参考にしているケースが多いです。一方で、ナイジェリアや南アフリカは、独特な法制度があったり、様々な国の法律が混ざっている傾向があるので、現地弁護士からのインプットが不可欠です。
アフリカ全体で共通する特徴を挙げるとすれば、新しい法律や法改正のキャッチアップが難しいことでしょうか。日本の場合、新たな法律が制定される際には、パブリックコメントを含め、手続に則った検討が行われ、施行時には詳しい解説資料が公表されるため、十分な情報に基づいたアドバイスが可能です。しかし、南アフリカを除くアフリカ諸国では、そもそも法改正の正確な情報自体が手に入りにくい上、適用解釈の拠りどころとなる情報もほとんどないため、非常に苦労します。
また、法律の運用に必要な規則が制定されていない、法律と実務が食い違っている、法律の根拠なく役所の命令で勝手に規制を始めるなど、想定外なことが日々起きており、実際のビジネスに影響が出ることも少なくありません。
―そのような日本では発生しないようなトラブルの対応をする必要があるアフリカですが、平林先生にとって、アフリカでお仕事をする魅力とは何でしょうか。
アフリカでの仕事の魅力はいくつかあります。
1つ目は、クライアントです。大きなビジョンとチャレンジ精神をもってアフリカに来ている日本企業の皆さんをサポートできることは本当にやりがいがあります。
2つ目はアフリカ人の同僚です。彼らと一緒に仕事をする中で、リスクを恐れず前向きに挑戦する姿勢から大きな刺激を受けています。
3つ目は日本とは異なる社会や環境です。アフリカ特有の文化や人間性に直に触れて仕事をするのはとても興味深い経験です。また、駐在を始めてから数年の間にも社会が大きく変化し、新たなスタートアップが次々と生まれてくるなど、テクノロジーの進化や新しい産業の発展を肌で感じられる環境も魅力的です。
―では、アフリカで活躍している人の特徴は何でしょうか。
アフリカで活躍している人の特徴としては、2つ挙げられると思っています。
1つ目がタフであること。ここでいうタフというのは、体力面よりも精神面の方が大きいです。予測ができないことの連続を乗り越えられる、精神的なタフさがアフリカでは求められているなと感じます。
2つ目は現地の人としっかり付き合えること。アフリカは、制度や教育など様々な面で日本とのギャップが大きいです。こうした環境で育ってきた現地の人々と、日々の仕事や生活の中で対等に向き合い続けることは、頭で考えるよりも難しい場合が多いです。対等な関係を築き、現地に入り込んでやっていくことが大切だと思います。
最近では、このような力を養うために、人材育成の一環として若手の社員をアフリカに送り込む日本企業もあります。
―平林先生の視点から、近年のアフリカビジネスの流れを教えてください。
近年、日本企業がアフリカのスタートアップにアンテナを張って投資するという流れが加速しているように感じます。
これまではアフリカのマーケットとしてのポテンシャルに目を付ける企業が多く、もちろんこれからも都市人口や若年層の増加を受けて成長が加速していくはずです。最近は、さらにその先を見据え、アフリカで生み出したビジネスモデルを他地域に展開する可能性を念頭に置いた興味深い動きが出てきています。
―アフリカでのビジネスで感じた課題を教えてください。
私自身が一番苦労しているのは現地の人々のマネジメントです。
期限を守らないことや、相手を失望させたくないからでしょうか、できないこともできると言うことが多くあります。そうした文化の隔たりを理解しつつ、やるべきことはやってもらうために日々様々な工夫をしています。基本的なことですが、毎日足を運んでフォローアップすることが一番大切ではないかと思います。
また、これは進出を検討されている日本企業を見ていて感じることですが、アフリカへの投資は、例えばアジアと比べるとどうしても時間とコストがかかります。きちんと予算を割り当てることも含めて、十分な事前準備が必要だと感じます。アフリカに関する知見がないゆえに大きいリスクと小さいリスクの判別がつかないこともビジネスを始めづらいところかもしれません。
―今後の展開について教えてください。
アフリカは将来有望な地域ですので、積極的に業務の幅を広げていきたいと考えています。一方で、非常に多様性のある大陸であるため、現地においてある程度経験を積まないと分からないこともあり、一か国ごとに丁寧に状況を見つつ地道に進める必要があると感じています。
近年、駐在や出張でアフリカにいらっしゃる方が増えているので、そのような方々がアフリカにおける日本の存在感を高めてくださることに期待しています。その際に、TMIがサポート出来るのであれば、非常に嬉しく思います。
―最後に、今後アフリカ進出を目指す企業や人に向けたメッセージをお願いします。
まず、企業に向けては、アフリカビジネスをやりたいという情熱を持つ担当者の方が社内にいらっしゃれば、費用と時間を用意してぜひチャレンジする環境を作っていただきたいと思います。
アフリカに挑戦しようとしている方々に向けては、アフリカビジネスに取り組んできた日本人の歴史はかなり長いので、どんどんチャレンジしてその歴史をつないでいってほしいと思います。既にアフリカでビジネスをしている日本人の方々と積極的にコミュニケーションを取られるとよいと思います。アフリカはレジリエンスの象徴でもありますし、学べることも多いはずです。ぜひ飛び込んでみてください。
―平林先生、本日は貴重なお話ありがとうございました!
優しいお人柄と長年のケニア生活を通じて得た知見を存分に生かして多くの企業をサポートしている平林先生。ローカルと目線を合わせつつも高い視座と熱い想いを持って、中長期視点で仕事に取り組まれている姿勢が非常に印象的でした。
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