アフリカビジネスの理解が深まる書籍⑥「日本人ビジネスマン、アフリカで蚊帳を売る」

2021.07.29
ANZA編集部
アフリカビジネスの理解が深まる書籍⑥「日本人ビジネスマン、アフリカで蚊帳を売る」


今回、ANZAが紹介するアフリカビジネスに関するおすすめ本はこちら!

浅枝敏行著の「日本人ビジネスマン、アフリカで蚊帳を売る」です。

ストーリー仕立てで読みやすく、アフリカ進出やBOPビジネス・ソーシャルビジネスの入門書と言える1冊となっています。

書籍概要


本書は、日本の科学メーカー住友化学の蚊帳がケニアのスーパーで売られ、ビジネスとして成立するまでの話を解説した、BOPビジネス・ソーシャルビジネスのヒントが詰まった一冊です。

住友化学が作った「オリセットネット」は、アフリカをはじめ約100ヶ国で使われているマラリア防除用高性能蚊帳です。

「耐久性」のあるポリエチレンに防虫剤が練り込まれていて、洗濯を繰り返しても中から 徐々に表面に染み出される仕組みで「防虫効果」が5年間持続します。これは、もともと工場の虫よけの網戸として使われていた技術を利用して開発されました。

また、網目の形状により「通気性」がよく、暑いアフリカでも使えるように工夫が施されています。

この画期的な蚊帳は、住友化学が持つ「プラスチック」と「防虫剤」の2つの技術により誕生し、2001年には世界保健機構(WHO)から認定・使用が推奨されるようになり、年間数千万張りの規模で使われています。

マラリアの現状


マラリアは主に熱帯で発生する感染症で、「ハマダラカ」という蚊を媒介して発症します。
「World Malaria Report 2020」によると、2019年には年間約2億人が発症し、その90%がサハラ以南アフリカで発生し、その多くは5歳以下の子供です。

マラリアは予防・治療が可能な病気ですが、貧困のためにアクセスを持てないことに加え、教育や就業の機会を失い、貧困が繰り返されてしまいます。

そのため、低価格でマラリアを予防できるオリセットネットは、多くの人々を救う画期的な製品といえます。

書籍要約


本書では、技術開発から製品販売に至るまでの出来事が細かく描かれています。

今回は、それらの出来事から、サブタイトルである「なぜ、日本企業の防虫蚊帳がケニアでトップシェアをとれたのか?」の答えにつながるポイントをいくつかピックアップして本書を紹介します。

①正しく自社を理解し、前例にとらわれずに行動する

(第2章 動き始めたオリセット・ビジネス より)

上流素材メーカーとしての色が濃かった住友化学が苦手としてきたマーケティング分野に、経験豊富かつ経営目線を持つ「住友化学らしくない」外資系企業出身者を取り入れました。

住友化学のような企業風土にとって、外部の血を中心とした組織作りは異例のことでしたが、正しく自社を理解し、前例にとらわれないことで、商品開発から販売に至るまでの多くの困難を乗り越える基盤を作ることに成功しました。

②オンリーワン性を忘れずにナンバーワンを目指す

(第3章 競争と変革への備え より)

製品開発当初、北欧デザイン会社による画期的なデザインの蚊帳でナンバーワンを目指そうとしていましたが、デザイン性がゆえに高価格になってしまうことに加え、現地調査の結果、ユーザーが必要としている機能ではないこともわかりました。

ナンバーワンになることを早期に実現しようとすればするほど、市場に存在しない新たな価値を不可的機能として導入したくなる。一方で、今は存在しない付加的機能を考えれば考えるほど、現在の商品や市場を形成している基本価値から遠ざかり、基本価値における強みや特徴がなんだったのかが置いてきぼりになってしまう、という状況に陥りやすい。


自社のオンリーワン性を十分に踏まえることがどんなステージでも求められる欠かすことのできない重要なことであり、結果的にナンバーワンに向けた鍵になる。 
                               著書より引用


「耐久性」「長期にわたる防虫効果」「網の目の大きさによる通気性」というオリセットネットの元々の強み・価値に立ち戻ることが、低価格での製品開発につながりました。

③コミュニケーションで「脳をつなぐ」

(第4章 新たな事業を「始める」 より)

新たなイノベーションや気づきを生み出す上で、お互いがチームメンバーの視点を取り入れて考えられる、「複数の脳がつながった」状態は理想的な状態です。

これは、人間関係と会話のきっかけになる「交流」を頻繁に発生させることで可能になります。

心理学の一説では、数時間の打ち合わせを重ねるよりも、1時間一緒に食事をするほうが距離が縮まると言われていますが、食事を共にするような交流を頻繁に発生させること、それを牽引する「名幹事」を取り入れることが組織作りにおけるポイントと言えます。

住友化学出身者だけでなく外部出身者も取り入れられたオリセットネットチームのような、異文化が混合した組織では、前提の考え方やものの見方が異なり衝突も起こりますが、その分お互いの脳がつながったときに起こせるイノベーションも大きいものになるのではないでしょうか。

④2種類のインタビューで判断の材料を得る

BtoCビジネスにおけるユーザーインタビューには2種類あり、事業構築の段階ごとに使い分けることで判断に必要な情報を効果的に入手することができます。

1つは、とりあえず様子を聞いてみるインタビューで、何を誰にどうやって売っていくかの目途が立たない場合に行う方法です。

仮説なしの状態で行うので、相手の生活の状況や価値観や商品の使用状況など、幅広い側面からの質問を行うことになり、1対象当たりにかかる時間も長くなります。これをもとに仮説を立てていくため、初期段階で行うことが多い方法です。

一方で、ある程度の事業仮説がある段階では、仮説の確認作業を行います。インタビューの論点が明確で質問項目が絞られているため、1日に複数の対象者に話を聞くことができます。

アフリカのような前例の少ない市場に展開していくうえでは、この2つのインタビューを使い分けることがポイントとなります。

⑤現場に出向いてイメージをつかむ

製品が販売・購入される現場に出向き、自分の目で確かめることで、どのような状態になれば購入されるのか、というイメージの全体感を持つことができます。

ケニアのスーパーマーケットに出向いて蚊帳を買う顧客を観察・インタビューを行ったところ、店頭に並んでいる蚊帳の違いを認識していないで購入していることや、店員に相談して購入する可能性があることがわかり、どのように顧客が商品を手にするのか、またどのような状態だと顧客に買ってもらえるのか、というイメージを持つことができました。

⑥「顧客からよいと思われる」差別化を行う

オリセットネットには、競合製品に負けない「品質」という強みがありましたが、どんなに優れた製品でもそれが顧客に伝わらなければ手に取ってもらえません。

「自分たちがよいと思っている」ことと「相手からよいと思われる」ことは異なり、製品の強みや他社製品との違いが顧客に伝わって初めて差別化が可能になります。

オリセットネットでは、既に市場に出回っている蚊帳との違いをわかりやすく表すために、蚊帳にストライプの模様を取り入れ、他の蚊帳との違いを視覚的に訴え差別化を図りました。

⑦現地の「ビジネスルール」を理解する

オリセットネットは、小売市場での販売の他にWHO(世界保健機構)に技術提供し無償配布を行うプロジェクトも進めていました。

これらは同時進行で進んでいましたが、小売販売が始まるより前に無償配布向けの製品が現地製造工場から横流しされてしまいました。

アフリカでビジネスをするとなると、横流しやコピー製品が販売されるなど、先進国では当たり前とされるルールが通用しない場面が出てきます。

このような、日本での常識からは外れた現地の「ビジネスルール」を前提として考えることが、スムーズに事業を進める上で重要になっていきます。

⑧忍耐強く続ける

異色な商品のために社内で受け入れられなかった技術開発当初から製品販売に至るまでの途方もない長い期間、様々な困難を忍耐強く乗り越えたことでオリセットネットは拡大し、必要としている人の元に届くようになりました。


アフリカのようなアウェイの市場に参入していくには、継続して壁を乗り越えていく忍耐力が必要になるが、一度そうしたDNAが組織に組み込まれれば、チャンスを見出すことができ、BOPのようなビジネスにも参入することができる
                                 著書より引用


著者であり製品開発に携わった浅枝氏が本書の最後でこう述べているように、最初は時間がかかっても粘り強く乗り越えていくことで、アフリカで成功するチャンスをつかめるのではないでしょうか。

本書には、今回紹介したポイントだけでなく、アフリカでBOPビジネス・ソーシャルビジネスを始めるためのヒントが詰まっているので、ぜひお手に取ってみてください。

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